ホームコラム異物混入を未然に防ぐには? 食品工場がすべき衛生管理

異物混入を未然に防ぐには? 食品工場がすべき衛生管理

異物混入を未然に防ぐには? 食品工場がすべき衛生管理

異物混入問題の深刻性とその影響

食品工場において異物混入は非常に深刻な問題です。消費者の健康被害が発生してしまったときの影響というのももちろんありますが、毛髪などの健康被害がない異物であっても、不快感を与えてしまったことにより社会的信頼を失うことになります。
SNSなどが普及された現在、その不快感は対象者だけでなくさまざまな人達に共有されてしまうことを考えれば、異物混入の発生は食品工場にとって脅威といえるでしょう。

現在の日本では、そうそう異物混入など起きていないと考えている方もおられるでしょう。令和5年に東京都で発生した異物混入の苦情は546件です。東京都だけで、1年間だけで546件も苦情が発生しているのです。そして、都には届け出ずにSNSにした人もいるかもしれません。SNS上の不満の声を見た反応は右図のとおりです。

SNS上の不満の声を見た見込み顧客の行動

起きてはならない異物混入が起きてしまう原因を把握し、未然に防ぐための方法を解説いたします。

異物とは?

まず、異物とはなんでしょうか。
異物混入に関する調査結果によると、異物の内容分類では、「虫(ゴキブリ、ハエなど)」「金属片(針金、ステープル針、カッターなど)」「人の身体に関わるもの(毛髪や体毛、歯、つけ爪、絆創膏など)」の上位3 種類が全体の40% 以上を占め、その他にもビニール、プラスティック片、ガラス片など、多くのものが異物として報告されています。
「異物」とは何かを改めて定義すると、「本来その食品に含まれていてはならないもの」といえるでしょう。
異物には何通りかの分類方法がありますが、性質の観点では下記の3種類に分類できます。

1.動物性異物(人や虫、その他動物に由来する異物。毛髪や衛生害虫など)
2.植物性異物(植物片、種子など植物に由来するもの)
3.金属・鉱物性異物(石や砂、金属、ガラスなどに由来する異物)

こうした異物の分類はできますが、これでは対策するための分類になってはいないと考えます。

異物混入が発生する理由とその原因

付け爪をしている女性

異物混入の防止対策という観点では、その「由来」が重要になります。問題解決のための観点として異物混入が発生する由来と原因は大きく4つに分けられます。
そのうち「原材料に由来するもの」は弊社の行う「衛生管理」では対応できないため、それを除外した3つについて解説します。

人に由来する異物

何らかの形で人、もしくは人の行動の結果として発生する異物です。
人そのものに由来する場合と、行動に由来する場合の2種類あります。この2つは対策が異なるため分けて考える必要があります。
人そのものに由来する異物とは下記のようなものです。

  • 毛髪・体毛
  • 歯の詰め物

行動に由来する異物とは例えば下記のようなものです。

  • エアシャワーやローラー掛けを正しく実施していれば取り除けたはずの繊維くず
  • ルールでは使用禁止のつけ爪
  • ルールに違反して持ち込まれた時計、携帯、ボールペンなどの私物

行動が由来のものはルールを徹底することで防げますが、髪の毛が抜けることは防げません。人そのものに由来する場合と、行動に由来する場合はそれぞれ別の対策が必要となります。

工場内部で発生する異物

工場内部で、生産活動もしくは環境衛生の不徹底の結果として発生する「異物」で、発生事由により4 タイプに分けて考える必要があります。

発生事由 異物の例
「5S」の不徹底が原因で発生するもの 空調機から出るゴミ、設備についたカビやサビなど
「5S」の不徹底により工場内で生息・繁殖した衛生獣・害虫類が原因で発生するもの 蚊やハエといった虫そのものや、鳥の羽や獣の毛、鳩やネズミの排泄物など
設備・機器類や什器備品類のメンテナンス不足により発生するもの ネジなど機械類の部品、ゴム片、硬質プラスティック片など
工場内作業ルールの無視や不徹底に起因して発生するもの ビニールやフィルム片、ゴム手袋片など

これらの解決には、年単位の工場内環境管理計画や、設備機器類のメンテナンス計画に基づく計画的管理が必要です。

外部から持ち込まれる異物

工場の外部から持ち込まれることで発生する異物混入です。

① 原材料や包装資材類の搬入など生産活動に関連して工場内に持ち込まれるもの
② 外部より飛来・侵入する衛生害虫や衛生獣
③ 清掃・メンテナンス作業やそれらをする外部業者により工場内に持ち込まれたもの

それぞれ順番に解説していきます。

原材料や包装資材類の搬入など生産活動に関連して工場内に持ち込まれるもの

原材料や包装資材類の搬入と保管ルールの見直しと関連させた検討が必要です。 例えば段ボールは注意すべきもののひとつです。 工場内の清潔区域や準清潔区域内へ、原材料や包材類が段ボール箱のまま持ち込まれ、箱ごと置かれていることのないようにしてください。(写真は納品業者が清潔区域内に工場外から直接搬入している様子)

まず段ボールは、外部環境の影響を受け、細菌類により汚染されている可能性があります。
そして段ボールは強度を上げるため、中芯と呼ばれる波形部分があり、この波形の隙間部分が虫の棲息場所となりやすく、卵が産みつけられている場合があります。
したがって、段ボール箱は保管場所を決め、場内に原材料を搬入する場合は専用容器などに移し替え、段ボールの清潔区域・準清潔区域内への持ち込みを禁止すべきでしょう。
開封後の段ボールは、速やかにゴミ庫へ移し保管するようにしてください。

外部より飛来・侵入する衛生害虫や衛生獣

防虫・防獣対策は、発生したものを駆除する対処療法と発生させない・工場内に定着させない根本療法の2つを分けて考える必要があります。

衛生害虫や衛生獣(ネズミなど)が発生した場合ですが、殺虫殺鼠用薬剤自体が「化学的ハザード」ですし、また何処で死ぬかわからないため、工場内での殺虫剤や殺鼠剤の使用には十分注意が必要です。食品安全上の「危害要因」となるので、必要な場合は専門の業者に依頼してください。

防虫防鼠で重要なことは、衛生獣・害虫が生息しない環境を作ることです。

衛生獣・害虫の生息には必要な4つの条件があります。水、餌、温度、そして隠れることができる巣にできる場所で、この4条件が揃うと衛生獣害虫は工場内で増殖します。

逆に言えば、この4条件のうち、どれか1つでも条件を満たさなければ増殖しにくくなります。食品工場では、防虫防鼠対策を薬剤使用に頼らず、環境を整え、衛生獣害虫が生息しにくい条件を作ること(IPM=総合的有害生物管理)が最も重要です。工場内の整理整頓と清掃を徹底することで、「餌」や「隠れる場所」をなくすことが最も効果的な対策といえるでしょう。隠れ家になるようなものがないように整理整頓すること、餌になる食品残渣を残さないことです。

また侵入経路対策として、工場内に通じる隙間を塞ぐことはもちろん、ドアを開けたままにしないようルールを徹底しましょう。

清掃・メンテナンス作業やそれらをする外部業者により工場内に持ち込まれたもの

こちらについては全く無防備な食品工場も見受けられます。 例えば機械メンテナンスのために、外部のサービスエンジニアが清潔区域内に持ち込んだ工具箱の中の工具やネジ類が整理されていないのです。そのような状態であれば、部品が紛失したことに気づくわけがありません。(写真は外部業者により場内に持ち込まれた工具箱)

清掃やメンテナンスなどで、工場内へ持ち込まれる工具類などの管理は行うようにしてください。 特に、ねじやナット類などの数は、業者の方では把握していない場合もあります。 「持込品管理表」を準備し、作業前に持ち込んだ数と、終了後に搬出した数と状態を点検し、持込品に破損や不明品がないことを確認します。 万が一、持込品の破損や数の違いを確認した場合は、必ず場内を点検し、持込品の破損片や不明分を回収しましょう。(写真は持込品管理表の例)

従業員の教育

異物混入を防ぐためには、従業員の教育はとても重要です。
ルールの設定とその理解、そして報告や改善についてご説明します。

ルールについて

異物混入を防ぐために、ルールを定めることは必須です。そしてそのルールが間違っていなくても、記載方法によっては異物混入を防げない場合があります。

悪い例:正しく着帽すること。
いい例:帽子から髪の毛が出ていないか、隙間がないか鏡でチェックし、また別の従業員と相互チェックすること。

正しいこと、きちんとされていること、のような曖昧な記載ではなく、誰が見ても明瞭にOKとNGを判断できるようになっていることが重要です。

ルールの理解について

ルールの設定には限界もあります。その際に重要なのは従業員がルールを理解しているかどうかにかかっています。

悪い例:ばんそうこうは使用禁止だったが、湿布は禁止されていなかったので使用した。
いい例:ばんそうこうのような、剥がれる恐れがあるものを使用している場合は申告する。

ルールをただの文章として暗記するのではなく、ルールの意味や理由を把握していることが、問題を防ぐことに繋がります。

報告と改善

ルールを遵守させることにも限界があり、人間が関わる以上なにか問題は発生します。発生したときに報告がないことには、対応や改善することができません。

悪い例:髪が帽子から見えていたが、先輩だったので黙っていた。
いい例:先輩従業員の帽子から髪の毛が出ていることに気づいたため、すぐに上長に申告した。白髪だったために本人が鏡で気づかなかったことが判明した。

何か気づいたことがあったら、すみやかに報告することを徹底しましょう。申告は褒められるべきことであり、躊躇してしまうような考えを持たせてしまってはいけません。報告が合った場合はすみやかに対処し、それを記録します。今後起きないような改善を実施するところまで確実に行いましょう。

異物混入防止の3 原則

食品工場において異物混入を防ぐには、異物混入防止の3 原則に基づいた具体的な対策が必要です。

①落とさない・作らない
②落ちてしまったものは取り除く
③工場内に持ち込まない

これらの3原則に従って実際に対策を計画・実行するに当たっては、各工場の現状と課題をもとにした検討が必要です。
この記事では対策例を記載します。

「落とさない・作らない」ための対策

人は毎日50 〜60 本の毛髪が抜け替わると言われておりますので、人数が多い工場内で毛髪が落下する可能性は高いといえるでしょう。毛髪を含む「落とさない・作らない」ための対策例を下記に記載します。

  • 外部業者によるユニフォームの洗濯を定期的に実施し、しわくちゃのユニフォームを着用させないようにする。
  • ユニフォーム下に着用できる衣類の条件を定め、場内での腕まくりを禁止するなどユニフォームの着用基準を厳格化する。
  • 毎日の入浴、洗髪により抜けた毛髪・体毛を除去させる。
  • 原材料、仕掛品、製品を異物が混入可能な状態で放置しないようにする。
  • うつむく作業や作業者がライン上に被さることのないよう、製造工程を改善する。
  • 場内の整理整頓を徹底し、毛髪やごみ、不要物を工場内にとどめない。

「落ちてしまったものは取り除く」ための対策

工場内の整理整頓を徹底し、掃除しやすい条件を日常から整えることが必要です。見えにくい場所や掃除しにくい場所の掃除が特に重要となります。できる限り掃除しにくい場所を排除することも検討しましょう。「落ちてしまったものは取り除く」対策例を下記に記載します。

  • 製造ラインとその周辺を目視確認し、異物の原因となる可能性のあるものは除去する。
  • 金属探知機を設置する。
  • 通路・廊下・階段の清掃を徹底させる。
  • 更衣室・休憩室の清掃を徹底させる(特に個人ロッカー、休憩用ソファー)。
  • 更衣室・休憩室にゴミが溜まりやすいカーペット、畳、スノコは使用しない。
  • スリッパ・作業靴類の内部、および表・裏面の洗浄・清拭を徹底させる。
  • 定期的にユニフォームのチェックと粘着ローラー掛けを実施する。

「工場内に持ち込まない」ための対策

故意であれ故意ではなくであれ、人が異物を持ち込む原因を防ぐための水際対策が重要です。対策例を下記に記載します。

  • 製造区域の入口でエアシャワーと粘着ローラーにより作業者に付着した毛髪・ゴミなどを除去する。
  • 着替え前のブラッシング、下着への粘着ローラー掛けなどユニフォームの着替えルールを見直す。
  • ユニフォーム・帽子の素材と構造を見直し毛髪・ゴミ類の付着を減らす。
  • エアシャワーの床面・壁面・フィルターの清掃、出口外側への粘着マット設置、設備点検の頻度などを見直す。
  • 「場外」から「場内」へ入場する場合、トイレ、休憩明け、ゴミ出しなど理由のいかんに関わらず、毎回必ずルール通りの「ローラー掛け」と「手洗い」を実行させる。
  • エアシャワーを経由しないで「場内」へ入る“バイパス”は禁止する。
  • 作業で使用する工具や事務用品は工場で必要数を準備し、私物の工具・事務用品の使用は禁止する。ほかにも、私物を一切持ち込ませないようにする。
  • 外部業者(清掃、納品・配送など)の入場と搬入ルールを作成し、作業者の衛生教育を徹底させる。

まとめ

異物混入の原因と対策、そしてプロの衛生管理が必要な理由を説明しました。
衛生管理は、食品製造とは違うスキルやノウハウが必要なので、メーカーだけで対応するのには限界があるかもしれません。
異物混入を含め、食品工場の衛生管理・環境マネジメントについてはSOCSマネジメントシステムズにご相談ください。